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黒表紙の本は糸で綴じられていて、厚みは親指ほどありました。古いものに見えるのに、つるりとしたその本は傷も汚れも捲れたところもありません。 「遠い昔、我らの祖先はその本を手に、紙を作るにふさわしい場所を探して世界中を彷徨った。そしてこの地にたどり着き、居を構え、紙を作った。」 王様に言われて本を開くと、そこには見たこともない文字が縦書きで書かれていました。 「そこには紙を作る技術が記されている。だが文字が読めるのはもう私しかいない。」 道化師は黴びた炭のような匂いを嗅ぎました。 いつも使うインクとは違うようでした。 「そしてこの本には王家のものしか知らない秘密がある。しおりの挟んであるところををめくりなさい。」 言われるままにページを開いた道化師は息をのみました。 王様は静かに言いました。 「お前が今思ったとおり、この本はただの古文書ではない。これは魔法の本なのだ。お前にそれを託したい。祖先のようにそれを使って姫を守って欲しい。 そして私は……この命が尽きた後。私はその本の守人となろう。」 道化師は震えました。 道化師は目を閉じてお姫様の笑顔を瞼に浮かべました。 まだ幼い姫様、やっと12才になったところ。 昨日は初めて結い上げたお髪を鏡でご覧になりながら、照れくさそうにはにかんでおられた……       
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