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* それからまもなく王様が亡くなりました。  王様の心配していた通り、周りの国々が四方から攻めてきました。 人々は逃げ惑いましたが、決して殺されることはありませんでした。何故なら世界で一番素晴らしい紙を作る大事な技術者達です。皆囚われてそれぞれの国に連れて行かれました。 ところが最後に攻めてきた国は違いました。 人よりも領土を求めたのです。沢山の兵士を連れて王様自らお城に乗り込んできました。 お城を守る兵士達は懸命に戦いましたが次々に倒れてゆきました。 道化師は黒い本を手にお姫様のお部屋に向かいました。 お部屋にはお姫さまが短剣を両手で握りしめて震えていました。お姫様が侍女たちに逃げるように伝えたのでした。道化師が来たことでお姫様はホッとして短剣を持った手を下ろしました。 道化師は「お姫様、私を信じていますか?」と聞きました。 お姫様は「勿論よ。」と答えました。 力強く頷く姫様ににっこりと笑いかけると、道化師は栞のページを開きました。 「我が愛するものを隠せ。紙の間に、森の奥に、本の中に!」 道化師の詠唱が終わった途端、姫様の体が光の粒になったかと思うとそのまま本の中に吸い込まれていきました。 道化師は姫様が本の中に入ったことを確認して本を閉じました。 そして急いで部屋を出ました。 お城中血の匂いに満ちていました。 「こりゃあ大変だ。バラの花が敷き詰められているのかと思ったら、どうやら違うらしい。これじゃあ玉乗りしたらつるりと滑って恥さらし。道化の出る幕じゃあなさそうだ。」 おどけながら、ぴょんぴょん撥ねていく道化師を追いかける兵士は誰一人いません。 道化師は無事に城を抜け出しました。 空は夕暮れ、さっき見たお城の中のように真っ赤な色をしていました。
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