安定剤

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俺は安定剤を毎日一錠飲んでいる。ステロイドも毎日のんでいるので、どうしても動悸が早くなる傾向にあるし、失明という激烈な体験をしたので、俺はパニック障害を抱えていた。 今はないと不安な気持ちになるし、依存が形成されている。俺の病気は四肢の末端の痺れをかかえているので、それも安定剤で少し緩和される。 今日は休みだったので、午前中休みだった嫁と買い物に行った。近所のショッピングモールに行って、アイスとデニッシュの組み合わせでゆうめいな喫茶店に入った。俺はブレンドコーヒーを頼み、嫁はミルクコーヒーを頼んだ。その有名なアイスデニッシュも頼んだ。11時までは食パンもコーヒーとセットで付いているらしく、朝ごはんを食べて、なかなかお腹が張っていたけれど、タダということならと思って、卵のセットを頼んだ。 今朝見ていたテレビの話になった。 「原田知世がゲストやったね」 「そうやねん、朝ドラの主人公の幼馴染のおかあさん役ででてる」 「ふわっとしてるかと思ったら、わりとブレてへんかんじやったんやな」 「主人公のお母さんが松雪泰子で、その幼馴染のお母さんが原田知世で、お父さんが谷原章介やねん。いかにもって感じやろ。ええとこの子感が半端ない」 「そういえば大迫ハンパないっても、あちこちで取り上げらっれてるらしいな」 「コロンビア戦は大迫が一番良かったみたいな、ニュースがあちこちやってたから」 コーヒーと水とトーストが運ばれてきたから、俺はジャケットの中にいつも入れてる安定剤を一錠取り出し飲んだ。 「悲しいんかな」 「なんで」 「原田知世の力強さが羨ましいや」 嫁はアイスデニッシュのさくらんぼを食べて、枝をまたアイスに突き刺した。 「女優さんやから、綺麗で強くないと、やっていかれへんのとちゃう」 「歌詞のアンケートで、頑張るとか、一所懸命みたいな言葉は、好きじゃないって答えたって、20年ぐらい前の音楽プロデューサーが言ってたやん」 嫁はミルクコーヒーのミルクをドボドボ入れて、長い間かき混ぜていた。 「原田知世ぐらいやと、そんなに頑張らんでもなんとかなるんちゃう」 「俺は原田知世よりも頑張らなあかんのか」 嫁はアイスにシロップをたっぷりかけまわした。そして一口食べた。 「さあ、私、朝ドラ見てるだけやから。原田知世綺麗やなって思ってるだけやから」 俺はデニッシュを4分の1口に入れた。甘い。
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