出会い

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 俺は『美術室』と書かれた教室の目の前でふとそう思った。しかし、ここまで来て引き返すのも面倒だ。 『多分、美術室にいると思うから。頼んだぞっ!』  プリントを渡してきた先生にそう言われて素直に来てしまったけど「そもそも職員室にいるんじゃないか?」とも思った。  ――まぁ、美術室前で本当に今更な話だけれど。 「……行くだけ行ってみるか」  もし美術室いなければ、職員室に行って……職員室にもいなければ、美術の先生の机の上に「担任の先生からです」というメモも一緒に置いて帰ればいい。  さすがにそこまでして「なんで手渡しじゃないんだ?」と言って怒る事はしないだろう。それならばそもそも生徒に頼まず先生が渡せば良かっただけの話である。 「はぁ、何にせよ。さっさと済ませるか」  美術室は……そこに広がっているのは何とも言えない独特な空間だ。普通の教室とは違う『(にお)い』も感じる。  この学校には俺の様な『普通科』の生徒もいるが、他に美術を専門的に学ぶ『美術科』という科がある。  だからなのか、この学校には美術科の生徒しか使わない教室がいくつかある。  このたくさんある美術室もその一つだ。俺たち普通科の生徒は美術、音楽と書道の三つの中から一つ選択しなければいけない。  しかし、美術を選んだ生徒は自分たちの教室で授業を受けていた。まぁ、俺はそもそも美術を選択していないんだけど……。  このプリントを渡すつもりの美術の先生には何度か会っている。  それも偶然……という形だったせいもあってか、実はあまりその先生のことはよく知らない。  でも、聞いた話では今も色々と自分で作品を描いて入選しているらしい……。 「……」  机の上に置かれているのは……絵の具が乾くのを待っている美術科の生徒の作品だろうか。  よく見ると、他にも色々なところに作品が置かれている。それに、壁にはいくつか作品がかかっている。  その作品の一つ一つにご丁寧に学年とクラス。名前も書かれている。つまりこれらも、美術科の生徒の作品なのだろう。 「上手いな。さすが美術科生徒。俺たち普通科の生徒とは比べモノにならないな」  こういったモノを見る目は完全に素人な俺だけど、その作品どれもが時間をかけて丁寧に描かれている様に感じた。
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