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ぼくはいまだ前をすたすた歩くハスに何度目かの声をかける。足がもう棒のようだ。
「もうすぐだって。いい公園があるんだ。すげー長い滑り台もあるんだぜ」
文句を言うたびにハスが返す言葉は絶妙にぼくの好奇心を刺激する。
「本当だろうな」
「本当だってば!」
「けど、ハスの言う通りなら、その公園には紙芝居屋がやってくるし、オオカミみたいなかっこいい犬が散歩に来るし、長い滑り台があって、二階建てくらいの高さのジャングルジムがあるんだろ?」
「そうだっけ?」
「やっぱり嘘だ」
「全部はないかもしれないけど、きっと楽しいよ。それに……」
ハスは足を止めると、くるりとぼくの方へ振り返った。今までは追いかけるのに精いっぱい、ついていくのがやっとだったから、ぼくも初めて足を止めた。
「ここから、健司はひとりで帰ることができるのかい?」
「……っ!」
その言葉に息を飲む。慌ててまわりを見れば、ずっと同じような団地が続いていると思っていたけれど、よく見れば見たこともない団地名が書かれてあった。
「なんで? だって、まだ陽が落ちない」
「そうだねー」
ハスがにやにや笑う。
そうだ。なんで陽が落ちないんだよ。
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