消された駅

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消された駅

「あっ、あの──。切符落とされましたよ」  前を歩く青年のデニムの後ろポケットから切符が落ちた。  高校生の私からすると少し年上に見えるその青年。ICカードが主流の今、切符で電車に乗るなんてちょっと意外だった。 「ありがとう」  チラッと切符に目を落とす。それは今いる砂山駅から石上駅までの切符だった。  石上駅?  青年は軽く身体をひねり、私が手渡す切符を受け取った。 「石上って、閉鎖されてるんじゃ……」  悪い癖が出てしまった。気になったことがすぐに口を突いて出る癖。昔からそう。自分に関係ないことでも、気になると尋ねずにはいられない。 「閉鎖?」  青年は不思議そうに首を傾げた。  亡くなったおじいちゃんから、子どもの頃に聞かされたことがある。石上駅には国の防衛施設があったこと。そこでは化学兵器の研究が行われていたこと。その実験が失敗に終わり、町に人が住めなくなったことで駅は閉鎖となり、町も封鎖されてしまったって。 「あっ。いや、なんでもないです」  余計なことを聞いてしまった。軽率過ぎる自分の行動を悔やんだ。  青年は傾げた首のまま会釈すると、何事もなかったように歩き出した。
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