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リアル脱出ゲーム
「皆さんを誘導する標識がありますので、目を凝らしてしっかりチェックしてくださいね。生き残りをかけた道を選択し、生きて、生きて、脱出してくださいっ!」
ボーイスカウト風の制服を着たスタッフの男が、無垢な笑顔で声を張り上げる。それを聞きながらオレは、「こういうの苦手なんだよなぁ……」と、小声でミサに言う。
「最近の脱出ゲームは、ほんとリアルなんだから! きっとタカシもビックリするよ!」ミサははしゃぐ。
たかが地方都市の片隅にあるデパートの催事場。近頃の脱出ゲームがいくら秀逸だからって、それは都会の話。こんな田舎に本格的なイベントを持ってこられるわけがない。
「そこのお兄さんとお姉さん! 今回の脱出ゲーム『地球滅亡へのカウントダウン』は、世界でも人気のイベント。本気で襲ってくるゾンビたちをはじめ、恐怖のトラップの数々! ウワサによると、中に入ったまま帰ってこなかった人もいるんだとか……」
オレたちの恐怖心を煽ろうと、消え入るような声で語尾を濁した。
アホくせぇ。行方不明になった客がいたら、イベントは存続できないだろっつうの。
「ルールはしっかりと理解されましたか? それでは中へ! 無事に生きて脱出されること、祈ってますねぇー」
どこまで脳天気なスタッフなんだ。オレは呆れたままミサに手を引かれ、入り口のゲートをくぐった。
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