同業者

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「次のマジックは、あれだな、アンタの胸ポケットの中にカードが仕込んであるんだろ? カードの背面に、マジックで黒って文字が書かれたカードが。お隣のお譲さんが着けてるブラジャーの色が黒だからだろ?」  中年の男は口元を吊り上げ、わざとらしく嫌味な表情を作ってみせた。 「すみません。同業者の方ですか……?」  マジシャンの顔色が変わった。  同業者が忍び込んで場を掻き乱すなんてことは、よくあることなのだろうか。さっきまではミステリアスな雰囲気に包まれていた店内の空間が、一気に張りつめた。 「これを見てもらったら分かるかい?」  テーブルの上に茶封筒が放り投げられた。  女性客の二人は、目の前で起こる出来事に、すっかり怯え切っている。 「どうしてこれを──?」  封筒から取り出されたのは、大きく引き伸ばされた写真だった。  写真の中には、マジシャンと若い女性がラブホテルから出てくる場面が映し出されている。 「たっ、探偵の方ですか……?」  ポーカーフェイスだった数分前の表情が思い出せないくらいに、マジシャンの顔は引きつっている。その額には大量の汗。 「探偵? 誰が?」  男は両手を大きく広げ、欧米人を思わせるジェスチャーで惚けた。 「次の写真も見てみな」 「次の写真──?」  マジシャンは男が顎で出した指示に従うように、封筒の中にある次の写真を取り出し、視線を落とした。
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