消された駅

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 急に心細くなった。来るんじゃなかったと後悔もした。気持ちを落ち着かせたくて深呼吸してみる。先入観からか、薬品のニオイが微かに鼻腔を刺激したように感じた。  せっかくここまで来たんだし、好奇心ついでに町を見てみたい。改札に向かって歩き出した瞬間、すごい力で左の手首を掴まれた。振り返ると、さっきの彼。違っていたのはその表情。目が血走っている。 「すぐそこの病院で大切な実験をしてるんだ。ちょっと来てよ」  彼は私の手を強引に引っ張った。あまりの恐怖に声も出ない。必死に腕をバタつかせ、彼の手を振り払った。その拍子に彼の手からさっきの切符が落ちた。  逃げ出さないと殺される。そんな予感がした。無意識のうちにその切符を拾い上げた私はホームを全力で駆け、改札を目指した。幸いなことに、改札には駅員の姿。 「すみません! 今、砂山駅から来たんですけど、戻りの電車ってすぐ来ますか?」  駅員に切符を見せ、砂山駅を指差した。 「砂山駅……? ずいぶん前に閉鎖された駅ですよね? なんか化学薬品の事故かなんかで……」  駅員の肩越しに路線図が見えた。そこには、砂山駅の名前はなかった。
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