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「電車のホームで、誰かから突き落とされたんです。久しぶりに妻と食事でも行こうと、ホームで待ち合わせしてたのですが、結局、妻には会えず仕舞いで」
「それはそれは。余計なこと聞いちまったな」
ボテっと垂れた腹をさすりながら、きまり悪そうに苦笑いした。
「笑顔で暮らしている家族の様子をお盆還りに見るのが、唯一の楽しみだったんです」
「まぁ、仕方ねえな。近ごろじゃ、こっちの世界に来る人間の数も急に増えちまったし。こっちの世界にもいろいろと事情があるだろうしな」
慰めるように語る男をよそに、視線は男の肩越しに向けられた。視線の先には、サトナカの息子が立っていた。
「タカシっ!」
サトナカは息子のそばへと駆け寄る。
「なんでお前がこっちの世界にいるんだ?」
父親の存在に安心したのか、息子は声をあげて泣きだした。
「家の駐車場でボール遊びしてたら、バックしてきた車にはねられて……。気づいたら、こっちの世界にいたんだ」
ひと息で言い終えると、あとはひたすらに泣き声を引きつらせた。
「そんなことがあっていいものか!」
息子を抱く腕に力を込める。
「すみません。まだお名前をお伺いしていませんでしたね」
サトナカは勢いよく立ち上がると、腹の出た中年男に名を尋ねた。
「俺は、島田だよ」
「島田さん。せっかくのお盆還りの機会、非常に頼み辛いのですが──あの」
「わかってるよ。あんたのカミさんの様子を見てきて欲しいってお願いだろ? 家族を思うあんたの気持ちを聞いてると、俺ァ感心しちまったよ。息子さん、大変な目に遭っちまったみたいだから、カミさんも気が動転しちゃってるかもしれねぇしな」
サトナカは首を横に振った。
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