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粘ついた汗が背中に悪寒を走らせる。佳奈を救うためには、自分の運にすがるしかない。
直哉はこめかみに銃口をあてがった。恐怖が誘う寒気で、身体の震えが止まらない。
「恋人を助けに現れたヒーローも、死を前にするとさすがに縮み上がるのかい?」
目の前では岩部が、片方の口角を釣り上げ笑っている。嘲笑されていることはわかっている。しかし、あまりの恐怖に悔しさを感じる余裕などなかった。
──一生の運を使い果たしてもいい。
恐怖から目を背けるために、ありったけの力を込めて瞼を閉じた。引き金にかけた人差し指が小刻みに震えている。覚悟を決めた直哉は、運命を引き寄せるように引き金を絞り込んだ。
ゆっくりと振動しはじめるピストル。鼓膜をつんざくような爆発音。さっき隣の部屋から聞こえてきた音とは比べ物にならないくらいに、バカでかい音。
──願いは届かず。直哉は死んでしまったんだ……。
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