お盆還り

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お盆還り

「ちょっと、急いでくれませんか……」  いかにも気の弱そうな中年の男、サトナカが前を歩く恰幅のいい男に向かって言った。 「そんなこと言ったって、混んでるんだからしょうがねえだろ! 急いでんのは、おめえだけじゃねえんだ。辛抱しろや」  妻と子供に会えなくなってしまう。一年に一度、盆のこのチャンスにしか、向こうの世界に還ることができないのに。  そのとき、《向こうの世界行き》のホームに大きなアナウンスが響いた。 『今回のお盆還りの列車は定員オーバーのため、次の便が最終となります。ご迷惑をおかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします』  サトナカは最終列車を待つ乗客を数え愕然とした。車両の定員は50人。前に立つ男までで定員オーバーだ。こっちの世界ではルールは絶対。違反すれば、重い刑が待っている。 「そんなぁ。この日を心待ちにしてたのに……」 「残念だったな」  恰幅のいい男が振り返り慰める。 「俺なんか盆還りしても、なんの楽しみもねぇけどよ。お前さん、そんなに家族のこと大事にしてたんかい?」 「えぇ。そりゃ、もう」 「まだ死ぬような歳にゃ見えねえけど、おたく、なんで死んじまったんだい?」  サトナカの風体を眺めながら男が尋ねた。
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