第1話

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私達夫婦は養護施設で育ちました。1つ上の彼は、一足先に施設を出る前の晩、 町の祭りに連れていってくれました。小間物屋の出店でじっと見ていた私に気がついた彼は 「欲しいのか?買 っ てやろうか?」 少ない小遣いは施設を出た時の為に貯めていたのを知っていた私は、少し、顔を赤らめて首を振りました。 「ありがとう~、でも、良いよ」 言った私の言葉を聞かずに彼は四つ葉のクローバーがちょこっと乗った玩具(おもちゃ)の指輪を2つ買うと、1つを私の右手の薬指にはめ、もう1つを自分の指にはめました。 それが彼のプロポーズでした。その1週間後、彼は学校と施設を卒業して社会の荒波の中に出ていきました。   それから1年、私も施設を卒業する日が来ました。 私は、お世話になった施設の先生方に頭を下げると、泣きながら私の名前を呼んでいた施設の弟、妹達に手を振り施設の玄関へ向かいました。 玄関で彼は笑顔で待って居てくれました。 私よりズッと大人に成っていましたが、優しい笑顔は昔のままで、指にはめられた指輪は祭りの夜店で買った玩具(おもちゃ)の懐(なつ)かしい指輪だったのです。   おそらく、この日の為に付けてきてくれたのだろうと思い、逢えた嬉しさに涙が流れました。 2人揃って施設のみんなに頭を下げ、手を繋(つな)いで並んで歩き出しました。 施設の満開に咲き乱れた桜が私達2人を励まし祝福してくれているかのように、花弁(はなびら)が風に舞っていました。 私と彼は何度も施設を振り返りながら歩みを進めました。 ?2話へ続く
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