第1話

5/11
前へ
/11ページ
次へ
このアパートを見つけた時は2人共、直感的に本当の帰る家を見つけたような気持ちでした 半年前、年齢的、肉体的にも此れが最後の旅行になるだろうと訪れた町で 夕闇の中に浮かび上がったアパートを見つけた時には、2人顔を見合せ何も言わずに山道を登って確かめに行きました 貼り出されていた 『貸し室有ります』の文字 どちらからともなく張り紙を剥がして薄暗く成り掛けていた山道を2人手を繋いで降りたのを今でも覚えています 旅館に帰るとお互い目を見合せ 「明日、行ってみましょうよ?」 若い頃のように目をキラキラさせて彼女が言いました。 「そうだな、明日、行ってみようか?」 その晩2人は久し振りに1つの布団に入り手を繋いで眠りにつきました。 翌朝、旅館の朝御飯を済ませると2人は昨日のアパートを目指して山道を手を繋いで登り始めました。 アパートの門扉の所迄来ると中から白髪の上品な老女が門扉を開けてエクボの可愛らしい笑顔で迎えてくれました。 「お早う御座います。どうぞ、御待ちしてましたよ」 「えっ!」 2人同時に驚くと 「昨日、張り紙を剥がしてお帰りに成ったでしょう、少し暗くなり掛けてたので、お声をお掛けしようかと思ったのですが、手にお荷物も何もお持ちで無かったので、今日出直していらっしゃると思ったんですよ」 「すみません、あのぉ、お部屋はまだ空いてますでしょうか?」 「はい、ご心配なく、空いてますよ。お2人なら1階の方が何かと宜しいんじゃ有りませんかしら?」 私達夫婦は顔を見合せて、良かったと喜んだ。 案内された部屋は本当に住みやすそうな所だった。 緑の芝生が広がる縁側からは遠くに青い海が見えた。 家財道具が一式揃っているのには2人驚いた。家主の老女の顔を見ると 「あっ、私共のアパートは全部付いてるんですよ。  手荷物1つで来られる方が多いものですからね、いつの間にか、そういう風に成ったんですよ。  ですから、家財道具も一緒にと言われる方には一寸、不向きなんですよ。ですから、」 「有りがたいです。私達夫婦はお互い身寄りが無いものですから、今回の旅で終わらせて良い所に出会えたら移り住むつもりで全部処分して来ましたから助かります」 「あのぉ、今日からでも、お借りできますか?」 「はい、私共は何時からでも結構ですよ(笑)」 ?5話へ続く
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加