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「このカメラ、君のでしょ」
透き通る声で話し掛けられ、ハッと我にかえる。
声の主は、写真部に入部した僕が奮発して買ったカメラを持って構えている。
「はあ、そうです。僕のです」
「駄目じゃない、こんな所に置きっ放しにしてちゃ」
声の主、眼鏡を掛けたショートヘアの少女は少し不満そうな顔をして説教した。
しかし、当の本人の僕はカメラを置きっ放しにしていた覚えはない。
奮発して買ったカメラだ、外出する際は肌身離さず持っている。
状況を整理するため辺りを見渡す。
雲で時々陰るものの気持ちのいい陽光が差し込む今日は、昼過ぎでもこの場所を明るく照らしていた。
ここ一帯は満開の桜の木と青々しく伸びる原っぱが広々と広がっている。
自分の真後ろは草が途中で切れている。
その先はゆるい坂にでもなっているのだろう。
ああ、そうか、思い出したぞ。
「草で見えなかった畝に躓いてそのまま転げ落ちたんだ」
ここで今までの出来事を思い出す。
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