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「そう。思い出したようで何より。あまり夢中になってると大きな怪我をするわよ」
彼女の言う通り、僕は桜を撮るのに夢中になって後ろ向きで歩いてたら、草で隠れていた畝に踵を引っ掛けてそのまま後ろ向きに倒れ、坂を背中から回りながら落ちたのだった。
幸いなるかな、カメラの紐は首に掛けていなかったので、カメラはその場に落ち、僕だけ落ちたのだ。
「ってことはカメラは……!」
「大丈夫よ。壊れてないし、傷もついてないわ」
「よ、良かったあぁ」
情けない声で呟き、はーっと安堵の溜息をつく。
張り詰めていた緊張が一気にほどけたのを感じる。
そんな僕をよそ目に彼女はその場に座り込み、許可も無く僕のカメラを慣れた手つきでいじる。
その隣に僕もどっかりと胡座をかいて座る。
「ふーん、綺麗に撮れてるじゃん。ここの桜はやっぱり人気なのね」
彼女が言う通り、ここの桜、特に僕が転げ落ちる直前まで撮っていた桜は地元ではかなり有名で、他県からも人がチラホラと見に来るほどだ。
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