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なぜ魔族は皆、必死に生きているのだろう。
王城に限らず、人間の国で暮らす全ての人々は、何かを為すことがない。決められた役割に沿ったことを、日々演じるだけだ。王は名ばかりの玉座に座り、武器職人は使われもしない武器を作り、神官は存在しない神に祈る。
何かを為したところで、崩壊によってすべては無意味に終わる。だからこそ人間の国は、ただ静かに終わりを待つ。
ところが魔族の国は違う。皆が一様に何かを為そうとしている。常に駆け回るのは、崩壊が進んだどこかの土地を修復するため。直したところですぐに崩壊するとわかっているのに、彼らは何度湖が枯れようと水を注ぎ、空が崩落しようとはめ直す。
まるで意味のない行動。無意味なことを、魔族たちは必死になってこなしていた。
「どうせ消えるのに」
そう思うのに、ユーシャはマオに手伝いを強要されるたびに、無言でそれに付き合った。枯れた湖に一週間ごとに洪水魔法で水を注ぎ、崩れた土地を大地魔法で隆起させ、崩落した空を修復魔法で直す。そんな日々が続く。
マオは忙しく世界中を飛び回り、崩壊の対応に奔走している。魔王城にいつの間にか自室を設けられたユーシャは、気まぐれに玉座の間に足を運び、気まぐれにマオを手伝うことで日々を過ごす。
昼過ぎに玉座の間に足を向けると、そこにマオの姿はなかった。魔王が不在の玉座の隣には側近のドライアドが立ち、代わりの業務をこなしている。崩壊した地域、被害の大きい場所、対応案などの報告をドライアドは羊皮紙に書き留めていく。
それをつかず離れずの距離で眺めていると、人波が途切れた隙を見計らい、ドライアドが近付いてきた。
「勇者様。つかぬことをお聞きします」
一礼したドライアドをユーシャは意外に思いながら見守った。彼女がユーシャに話しかけてきたのは、魔王を光弾から守ったときの一度きり。姿を見かけることは多いが、お互いに名前すら知らない。彼女がユーシャに話しかけてくることなど、初めてのことだった。
「魔王様より勇者様は魔法の扱いに長けているとお聞きしました。植物を扱う魔法にも長けていらっしゃるのでしょうか?」
「闇魔法以外なら」
素っ気ない返答だが、ドライアドは気にした風もなく話を続ける。
「実は昨晩、西にある夕霧の森が突然枯れてしまい、手を貸してくれる方を探しているのです。勇者様にお願いできないでしょうか?」
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