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夕霧の森はすぐに見つけることができた。崩れゆく大地に広がる夕焼け色の森。朱色の枝葉を持った樹々が生い茂り、夕焼け色に染まった大地が続いている。しかし森の北半分ほどは夕焼けとは程遠い、煤けた色をしている。枝葉が落ち切り、今にも折れそうな骨のような木々が、細々と乱立しているのみだ。その一帯はもはや森とは言い難かった。
骨のような木々の元へ降り立つと、ユーシャは幹に触れた。木は水分を失い、一つ残らず地に落ちた朱色の木の葉が、地面を血色に染め上げている。枯葉ばかりの地面には草の一本も生えず、木の根元に連なる魔晶石は、触れると粉のように砕け散る。高密度の魔力を含む土地でのみ生成される魔力の結晶は、完全にその力を失っていた。
大地が崩れる兆候の一つ、大地が死んだ証だ。じきにここ一帯の重力は狂い、大地が瓦解を始めるだろう。
考えれば考えるほど、この森を直す意味などどこにもない。
そのとき、背後でわずかに木の葉がこすれ合う音がした。振り返ると数人のドライアドたちが、木の陰からユーシャを窺っていた。魔王の側近であるドライアドよりも、彼らは随分とやせ細った形をしており、そよ風に吹かれただけでも倒れそうだ。一人で立ち上がる力がない者は、他人の肩を借りてどうにか立っている。
しばし無言で見つめ合うと、ドライアドの中から一人の老人が歩み寄ってきた。その足取りは弱々しく、子供であろうと容易に倒せそうだ。
「もしや、我らを助けに来てくださったお方ではありませんか?」
静かに一礼したドライアドの仕草に、ユーシャは既視感を覚えた。
「そんなところだ」
その一言で背後のドライアドたちの間に喜色が走る。老人は再度深々とお辞儀をした。その仕草が魔王の側近であるドライアドのものと同じものであると気付くと、ユーシャは思わず老人に話しかけていた。
「もしかして……その、魔王の側近をしているドライアドのことを、知っているか?」
自分から魔族に話しかけたことに、ユーシャ自身驚いていた。側近の名を聞いておくべきだったと後悔しながら曖昧に問うと、老人の顔に亀裂が走った。そこから木片が飛び散るが、老人は気にせず嬉しそうに笑った。
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