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見咎められないのをいいことに、勇者はさらに足を進める。魔族の国に足を踏み入れた瞬間から、漆黒の魔王城が嫌でも視界に入った。そこへ向かいゆっくりと歩いていく。緩めた足でも二日も歩けば、魔王城に辿り着いてしまった。小さなこの世界ではたった五日も歩けば、王城から魔王城へ辿り着いてしまうらしい。その事実に、勇者は思わず笑いたくなった。
ああ、笑うってどうやるんだろう。
勇者として与えられた能力に、笑うという能力はないのか。そういえば幼馴染が空に潰されたときも、涙一つ流れなかった。きっとそういったものは、勇者には不要だから与えられていないのだろう。
ああ、笑うってどうやるんだろう。
勇者として与えられた能力に、笑うという能力はないのか。そういえば幼馴染が空に潰されたときも、涙一つ流れなかった。きっとそういったものは、勇者には不要だから与えられていないのだろう。
魔王はどんな人だろうか。世界で唯一、自分と同じ終幕を引く役割を持った人。人なのかもわからない。魔物だろうか。化け物だろうか。そこまで考えて勇者は首を横に振った。
そうだ。考えても意味がない。もう終わってしまうのだから。終わる世界なのだから。何をしたところで無意味で無価値で、何も考えてはいけない。
勇者は城への門を押し開けた。
なぜこの世界は生まれたのだろうか。
勇者は玉座の間への階段へ踏み出した。
なぜ自分はこの世界を壊さなければいけないのか。
勇者は最後の扉を開け放った。
ああ、私は、おれは、この世界を、壊したくは……。
勇者は玉座を見上げた。
「ああ、くそ! また空が崩落した。おいそこの勇者、いいところに来た。世界を直しに行くぞ。付いてこい」
「は?」
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