待って待たれて

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 自分が住んでいた田舎とではやはり違うのかなと新社会人のときから驚いていた。さすがに七年目になると慣れてしまったが。  顔は知っているが名前は知らないしどこの会社に勤めているのかもわからないサラリーマンの中に並びながら、桐子は隣の列をしきりに気にしていた。  スマホを見るふりをしながら視線は横に向けるのである。気が付かれてはいないだろうがもしばれれば不審者として見られるだろう。  だがそれでも横目に見ることをやめることはできない。これは今年の春からだ。  あと四分で電車がくるというところになってすっと隣の列に背の高い男の子が並んだ。ちょうど桐子の真横だった。  桐子は急いで目をそらしてその男の子か映るようにスマホの画面を傾けた。  そこにあるのは精悍な顔立ちをしただがまだ大人の男性には劣る、純粋な幼さがある整った顔だった。  季節柄男の子の制服は合服でシャツの両袖は何回かまくっており紺色のベストを着ていた。黒いリュックは教科書が入っているのか疑うほど薄く、しぼんでいる。もしかしたら学校にロッカーがあってそこに教科書を入れているのかもしれない。  手には膨らんだ黒いナップサックがありおそらく体操服でも入っているのだろう。     
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