待って待たれて

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 桐子はスマホをしまって少しだけ口角をあげる。誰にも気づかれていないと思うが口を拭うを動作をして真顔に戻した。  今日も来たんだ。よかった。休みかと思った。そう思うくらい安堵の気持ちとうれしさとがあふれていた。  桐子は毎日この男の子を待って顔を見るのが日課になっていた。  本当に顔を見るだけが日課だ。声をかけたこともなく、もちろんどさくさに紛れて体に触れたこともない。  おそらく今年の春に高校に入学したか、なにかの理由で電車通学を始めた子のようだ。今までこの男の子を見たことはなかったのでわかる。  一目ぼれとでもいうのか桐子は初めて見た時からどうしようもなく気持ちを動かされていた。もちろん男の子とお近づきになりたいなどとは思っていないが、見ることくらい許されるだろうといつも名前も知らない男の子を見つめ続けていた。だが初めからこうして近くにいたわけではない。  初めのころは本当に遠くから見つめるだけだった。それなのにいつのまにか横に並ぶように計算して列につくようにまでなってしまった。  我ながら気持ちが悪いと思う。一回り以上も年下の子にひかれているのだから。  向こうは自分のことを気にも留めていないだろうしこんなに毎日同じ電車に乗っているけど顔すら認識されていないかもしれない。     
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