想い出カレンダー

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4月の良く晴れた午後の事。4年3組のクラスからは、わいわいと子供達のはしゃぐ声が聞こえる。 「ほら、静かにして」 特に騒ぎ立てる男の子に担任の先生が注意する。だが、男の子は最新のゲーム機をみんなに見せびらかし続けていた。 この春から担任を任された若い女性の先生、まだまだ子供の扱いには慣れていない。授業ならまだしも、こういった状況では経験の無さが浮き彫りになる。先生も自覚しテンパるばかりだ。 新学期初めての『学級会』の時間。今日は、子供達と触れ合いを持つ事に主題が置かれた。その上で何をするかは担任の先生次第だった。 考えた挙句、作文の発表会をする事にした。題目は『僕の私の宝物』これなら、みんな楽しく好きな事を書いてくれるだろうと・・・そう思ったのだが。 『あぁ、ダメだダメだ。私はやっぱりダメだ・・・』先生は、自己嫌悪を覚えるばかりだった。 子供達は、高価なゲーム機やら、お人形のセットやら、アクセサリーやら持ってきて自慢気にひけらかす。それは、先生が持ってきていいと言ったから。そうすれば楽しいだろうと思って、先生自身が発案した事だった。 裕福な子はそれでいい、実に嬉しそうにはしゃいでる。でも、そうじゃない子は・・・おばあちゃんに貰った筆箱や、お父さんの出張のお土産のキーホルダーを持ってきた子達は・・・ そんな子共達は『宝物』をランドセルにしまい、真っ赤な顔をしてうつむいてる。 『私はなんて事をしてしまったんだ。本当に可哀想な事をしてしまった。あぁ、ダメだダメだ・・・』 自己嫌悪に苛まれながらも、この時間を続けなければならない。やっと男の子が黙ったので、この隙に次の子供を指名する。 作文は、自分の席で立ち上がって発表する事にしていた。男の子の隣の席は、眼鏡をかけた女の子だった。 立ち上がったその女の子は、『宝物』を持っていない。それどころか、原稿用紙も手にしていない。 女の子は、眼鏡に指をかけると、 「わたしの『宝物』は、強いてあげるならこの眼鏡です。これがあるから、好きな本も読める、勉強も出来る。はい、眼鏡です」 と、だけ言って座ってしまった。 周りの男の子達が、「なんだよ短いよ!」「ずるいずるい!」などと騒ぎ出す。 先生は慌てて「いいの、今日は長さとか決めてないんだから」と言って静めた。 けれど、座ってさっさと文庫本を開いている眼鏡の女の子に対しては、
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