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もはや成す術もなく、呆然とする睦美の前に、救いの主が・・・現れた!
ガチャッとドアが開く音がして、鞄とコンビニのビニール袋を手にした父親が入ってきたのだった。
「お父さん!」
睦美はベットから離れ、父に飛びついた。
「お、おぉ?」
この歓迎に訳が分からない父ではあるが、取り敢えずビニール袋からジュースを取り出し娘に渡した。
「ありがとう!」
睦美としては、これで事態が変わると期待していた。
続いて父は、ベット横の椅子に腰掛けて、ミネラルウオーターを妻の傍らにそっと置いた。そして・・・
「なんだい?そのカレンダー」と言った。
『バカじゃないの!?お父さん!!』
睦美の心の声は爆発しそうだった。
母は瞳の涙をさり気なく拭って、桜の写真を見せながら夫に手渡した。
「これ、綺麗ねって話してたの。お花見行きたいねって・・・」
涙を拭ったとは言え、母の声はまだ震えている。今や憎むべき存在となったカレンダーを手にした父を、睦美は睨み付けた。
「ふぅ~ん」
父は呑気な声を出した。それから軽く振り返って娘を、そして向き直って妻の様子を改めて見た上で、こう言った。
「行きたいね。じゃなくてさ、行ったと思って話そうよ」
「えっ?」母子らしく2人の反応は同じだ。
「いいかい?」父は、いたずらっぽく笑いながら喋り始めた。
「いやぁ本当に綺麗だったねぇ。天気も良くて・・・あれはどこの桜だったっけ?」
妻が突然の病魔に倒れ、自らも仕事に追われる事となり、日々の生活に疲れてはいた。しかし元来、彼は呑気で遊び心のある男だった。
『今はどんな事でもいい、とにかく楽しく笑い合う時だ』彼はそう思った。
母はぷっと吹き出すように笑ってから、睦美にウィンクをした。
「上山城のソメイヨシノでしょ。満開だったわね。ピクニック気分で楽しかったわぁ」
母が喋り出したのを聞いて、睦美もわぁっと笑顔になった。そしてテーブルの上から、12色のカラーペンを取ってベットに乗っかった。
「貸して!」
父からカレンダーを奪い取った睦美は、写真の下の日付から『4月14日』日曜日を選んで赤○を付けた。
余白に『お花見!いい天気!!』と書き、続けてピンク色のペンで、大きく桜の絵を描いた。
「お母さんの作るお弁当は最高だったな。睦美の好きなおにぎりな」
「うん!美味しかった!」
桜の横に、更に大きなおにぎりの絵を描き入れる。
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