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「なんだよ、おにぎりの方が大きいじゃないか」
「そーよ、花より団子よ」
父にはツンという表情を見せながら、睦美は母を見上げて瞳を輝せた。
『笑ってる!』母も同時に思っていた。
『睦美が心から笑ってる!』と。
5月の写真は鯉のぼり。青空高く、悠々とはためく。
「子供の日だから、睦美の好きな所に行ったのよね」
「え・・・とぉ遊園地!」
「おっ遊園地なぁ、お父さんは好きだぞう。お母さんは全然乗らないけどな」
「私ダメ・・・ふわぁとするのがダメ」
母は病気と無関係に青い顔をした。
「なに?ふわぁって」
「ふわぁってするじゃない。体が浮くじゃない?」
「や~い怖がり~」
調子に乗った父が悪乗りする。
「そう言ってるけど、お父さんだって苦手な乗り物あるのよ」
母は耳打ちするように、睦美に言う。
「えーなに?なに?」
メリーゴーランドの馬の絵を描きつつ、睦美が尋ねると、父は少しばつが悪そうな顔をした。
「観覧車よ」
「なんで?回るだけでしょ」
「いやだってさ、あんな小さなゴンドラに乗って、かなり高く上がるんだぞ。上では風が吹いて揺れるし」
「や~い怖がり~」
妻の反撃に、父は震える仕草をする。
「2人とも怖がり~わたしは何でも平気!」
睦美はお馬さんに続き、観覧車の絵を描きあげた。一目でそれと分かる、小4にしては上手い絵だ。
6月を開くと、紫陽花の花が雨の中で咲き誇る美しい景色だ。しかし母は、もっと子供が喜ぶ話をふった。
「蛍を見に行ったっけね」
「うん!蛍見たい・・・じゃなくて見たんだった!」
睦美はアニメの蛍を思い浮かべる。
「雨降ってきたけどな」
父が話に水をさす。
「傘さしちゃうと見えないから、こんな風にパーカーのフードを被ってね」
母がした頭に被る仕草を、睦美は楽しそうに真似る。
「結構沢山飛び交ってたよな。あっそう言えば、睦美のすぐ横を通り過ぎたのがいたよな。ピカピカ光りながら・・・」
父がスーッと目で追う仕草をすると、何だか嬉しくなってきた。
「そう!手を伸ばしたらすぐそこだった!わたし捕まえられるかもって思った!」
睦美は満面の笑みを浮かべる。
「だめよ、捕まえちゃあ」
「分かってる!だから逃がしてあげたわ」
カラーペンで色鮮やかに描かれた可愛いらしい蛍の絵は、笑いながら、親子のフードの上を飛び越して行く。
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