0人が本棚に入れています
本棚に追加
会うことはない
彼女が眠ると、私が目覚める。
それは私にとってとても自然で当たり前のことだった。
今も変わらず当たり前のこと。
私は目が覚めるといつも、まず壁にかかった時計を見る。彼女は時計の秒針の音が嫌いで、静音のものを使っていた。耳をすませないと聞こえないかすかな電動音。針は滑らかに木目の板の上に浮き上がる簡潔なデザインのアラビア数字のさらに上を回る。
それから壁にかかったカレンダーを見る。彼女の好きな猫のイラストのカレンダー。昨日までの日付には赤い点が打たれている。今日がいつなのか見失わないために。私は今日の日付に青い点を打つ。
彼女が目覚めた時に、彼女が迷子にならないように。
部屋は彼女の匂いがした。彼女の気に入っている柔軟剤の香りと、なにか清潔な匂いが私の体からもしている。着ているパジャマや枕カバーからは特に濃い匂いがした。だから脱ぎたくなかったし、枕に顔を埋めていたいとさえ思う。
カレンダーによれば今日は休日のようだ。だから私はまたそのままベッドに倒れ込む。枕の匂いを胸いっぱいに吸い込む。大丈夫、何をしても彼女はここにはいない。私が目覚めると、彼女は眠りにつく。
最初のコメントを投稿しよう!