会うことはない

3/3
前へ
/7ページ
次へ
 私は1日彼女の部屋で過ごした。家から出ずに、冷蔵庫にあるもので料理をして食事をとり、できる範囲の掃除をして彼女が溜めてしまった洗濯物を干す。彼女が面倒臭がるだろうアイロンがけもしておこう。今日の彼女は久々に予定がないらしかった。  私は知っている。彼女が本当は家で一人でまったりと過ごすのが好きなことを。でも彼女はすこし臆病で、予定のない休日に罪悪感をおぼえる人だ。そんなこと気にする必要はないのにと私がどれだけ思っても、彼女は頑として聞き入れない。  頑なに何もない休日を怠惰と呼んで、恥ずかしがっている。そういう日に自分が「あーあ。1日無駄にしちゃった…」と決まってつぶやくのを彼女は気づいていない。私はそれを聞くのが好きだ。  妙に呑気なその響きがどうにも可愛らしく思えるからだ。  体に比べて柔らかな腕を抱きしめるように抱え込む。  私は彼女が好きだ。  彼女のことをとても好きだと思う。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加