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声の世界
「まあいっか」と彼女が言うので「よくはないだろ」とツッコミを入れる。
もしかして深層心理的に猫を求めていたのだろうか…なんてのんきな考え事をしはじめた彼女に少しだけ呆れる。
どうして怪しく思わないのだろう。
どうして病院へ行かないのだろう。
いくら夢遊病と言っても数日記憶を失うなんて誰が聞いてもあまりにおかしい。
彼女が目を覚ましたので、私は再び眠りについていた。とても浅い眠りのなかで彼女の心の声が聞こえる。その声が心地よくて私はゆらゆら闇をさまよう。彼女の声しかない暗闇でゆらゆら漂うのが私の人生のほとんどだ。
ただ彼女の人生の邪魔だけはしたくない。だから黙って身をひそめる。彼女が気づいて悩まないように。私はどこにもいてはいけない。
代わりに心の声を聞くのは目をつぶって許してほしい。
私は彼女の人生を邪魔してしまうくらいなら消えてしまっても構わない。
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