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「…っくしゅん」
さむ…と二の腕を擦り、ファンヒーターのスイッチを入れた。
明日はゼミの先生の講義があるからそろそろ休まないと。
少し迷ったけど、星の王子さまの本はお気に入りのブックカバーを掛けて就活用のバッグに入れることにした。自分に自信が持てない時、この本のページを開けばきっと王子さまが寄り添ってくれる気がして。
いつの間にか雨の音も聞こえなくなっていた。立ち上がりカーテンを開けると切れた雲の間から三日月が顔を覗かせていた。その輝きが強くなるほど雪国の夜は冷え込みがきつくなる。
「明日の朝は手袋とマフラーがいるかな」
私ひとりが泣いたって喚いたって世の中のシステムが変わるわけでは決してない。ならば与えられた居場所で精一杯の努力をしていくしかやっぱり方法はないんだ。
雲が切れて少しずつ星も輝き始めた。地球からは消えてしまった王子さまはきっと、小さな小さな自分の星でたった一輪のばらと幸せに暮らしているだろう。そう願いたい。
「はい、がんばります」
がんばってとあの男性が言ってくれた返事を、今返してみる。
月と、それから王子さまが暮らしているだろう、小さな小さな星に向かって。
_完_
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