世界で2番目に

2/4
前へ
/8ページ
次へ
スーツを家庭の洗濯機で洗えるというメリットはクリーニング代が浮くという現実的なことではなく、洗剤や柔軟剤などで自分の好きな香り付けができることなんだと思う。粉末の洗剤が程よく泡立った洗濯機に、丁寧にネットに入れたスーツの上下を沈めてグリーンのパッケージの柔軟剤をその投入口に入れた。 お湯を張ったバスタブにも森の香りの入浴剤を入れた。ブクブクと浮き上がる気泡をつつきながら今日出会ったあの男性はやりたかった仕事に就職できたのだろうかと考えを巡らせる。 きっと答えはnoだ。 雨はまだやまなかった。夕方よりは小降りになり、サアーと静かに降る雨は優しくて、ざわざわと沸き立った胸のうちを子守唄のように静かに収めてくれる。 小さな姪っ子に本を送ることを思いつく人が最初から外回りの仕事を希望していたとはちょっと想像しにくい。もしそうだったとしたなら、どんなふうに自分と向き合いながら今の仕事を続けているのだろう。私のことはどんなふうに見えたんだろう。 なんだかちょっぴり泣きたくなってちゃぷんとお湯に顔をつけた。 簡単に夕食を済ませて洗い終わったスーツをハンガーに掛ける。ひとり用のポットに作り置きしてある紅茶を煎れて、膝の上に貰った本をのせた。 クリスマスツリーの模様の緑の包装紙。左の隅に貼られたメリークリスマスのロゴのシールにはピンクのリボンが添えられている。こんなふうに本をプレゼントされたら姪っ子さんは嬉しいだろうな、きっと。 文庫版も小さい子ども向けのものもある物語ならうちにもあるかもしれない、聖書とは違って。もったいなくて開けないでおこうかとも思ったけれど、私の指は透明なセロテープを慎重に剥がし始めていた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加