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現れた表紙は幼い頃から見慣れた男の子のものだた。
「星の王子様」
白の少し厚手の紙は思わず触りたくなるような質感だった。私が覚えている王子様はマントを羽織っていたような気がしたけどこの王子様はシンプルなグリーンのつなぎの服を着ていた。そして、小さな小さな自分の星から黄色に彩色された他の星々を眺めていた。
ほんと、これならクリスマスプレゼントにぴったり。世界で2番目に、ううん、きっと世界で1番親しまれている王子様をそっと撫でた。
「大切なことは目には見えない」
あまりにも有名な言葉だけどこの物語の結末をきちんと語れる人はあまりいないのではないだろうか。そういう私もそのひとりだ。王子様がどうなったか、どうしたかったのか。誰かに聞かれても答えられる自信はない。
それよりも私には、星の王子さまと聞くと思いだすとても印象に残っている作品があった。
とある投稿サイトで読んだその作品は、戦時中特攻を命じられた隊員が読みきれなかったページを切り取り、懐に入れたまま出撃していくという内容が含まれていて、その物語というのがこの星の王子さまだったのだ。
「もしかしたらあの兵士は王子さまのあの結末を予想していたのかもしれない」
「王子様と一緒にいくつもりで…」
膝の上の王子様に手のひらをのせたまま、今さらながらそんな考えが頭をよぎる。
そういえば星の王子さまの原作者も飛行機で偵察に出かけたまま戻らない人となってしまったんだっけ。
ひとりきりの部屋の中。口を付けなかったオレンジペコもすっかり冷めて香りも消えてしまっている。
思わぬきっかけから「死」という符号が合致してしまい、私はしばらく言葉を失っていた。
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