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「あら、あなた娘の友だちよね?」
その人は、突然夢に出るなりそう言った。高校の、同じクラスの女の子……園崎さんの母親だ。
その娘さんというのは、別に友だちでも何でもない。1回だけ帰り道が一緒になって、すごい量の買い物袋を抱えていたから、持ってやったことがあるぐらいだ。
「あら、なんで私、あなたの夢に出ちゃったの? えっと……」
「武藤です。俺はどうも亡くなった人が夢枕に立つ体質らしいです。園崎さんに何か伝言があるなら伝えますよ」
「え、いいの?」
園崎母は、前のめりで目を輝かせた。少しも疑わないのか。
「こうなっちゃったんだもの。使えるものは何でも使うわ」
まあ、話が早いのは嬉しい。いつも説明だけで疲れるから。
「じゃあ……ちょっとたくさん伝えてほしいんだけど、いい?」
「いいっすよ」
俺はどこからかメモ帳を取り出した。どういう理屈か、夢の中でメモ帳に書くという行為をすると、起きても言われた内容を覚えているのだ。
園崎母は、ごほんと咳払いをして、語りだした。
「以上! 必ず家族に伝えてね」
「……何ですか、コレ?」
尋ねようと園崎母を見ると、その姿は忽然と消えていた。
言いたいことを言い終えたら、死者たちは消える。聞き返すことも、確認のために呼び出すこともできない。
あとには、彼らの言葉を綴った”手紙”だけが残される。
その瞬間、俺には使命が課せられるのだ。その”手紙”を届けるという使命が。
その”手紙”が例えどんなに罵詈雑言で埋め尽くされようと、醜悪な陰謀に関わっていようと、たとえどんなに意味不明でも……。
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