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「武藤くん?」
出迎えてくれた園崎さんが、俺の顔を見て驚いている。
当然だろう。今日は園崎母の葬儀が終った日で、俺たちは午前中、その葬儀に参列したばかりだった。
その夜に、ほとんど話したこともない男子が家に訪ねてきたのだから。
「あの……実は園崎さんのお母さんとは面識があって、ちょっとした手紙を預かってました」
手紙を届ける時の定型句を口にするが、当然眉を顰められ――なかった。
「本当!? 初めて聞いたけど……ありがとう! とりあえず上がって」
……親子そろって話が早すぎないか?
客間に通され、お茶を淹れてもらう間に何故かお父さんと弟さんにも話が通ってしまい、俺は家族3人を前にすることになった。3人とも、何か期待に満ちた目をしている。どうなってるんだ、この一家?
ここに来て帰りたいとは言えない。用事をさっさと済ませようと、鞄から園崎母の手紙を取り出した。手紙と言っても、紙に書いたのは俺なんだが。
「こ、コレです」
そろりと差し出すと、3人を代表して園崎父が受け取り、3つ折りの手紙を開いた。
3人が押し合いへし合いして手紙を読む間に、お茶を一口――
「ああああぁっ!!」
思わず吹いてしまった。びっくりした……。
真っ白い便箋に茶封筒じゃさすがに信じられないか? もっと凝った手紙風のものにすれば良かっただろうか?
「間違いない……お母さんの手紙だ!」
3人揃って、ぼろぼろと泣き出した。良かった、信じてる。
「そ、そうですか。じゃあ、確かに渡したんで俺はこれで……」
そろりと立ち上がる俺を、何かが制した。園崎さんの手だ。正確には園崎さんたちの手だ。全員、俺の体のどこかを掴んで離さない。
「な、何か?」
「せっかくだから、武藤君も見て」
「え」
「君、ここまで来たんなら、最後まで見届けてくれないか」
「頼みます。武藤さん」
一刻も早く立ち去りたいが、園崎さんたちの目がそれを許さない。もはや柔らかな脅迫だ。俺は諦めて、座布団に座り直した……。
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