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「えっと……これ、誰かの歌ですか?」
「たぶん、お母さんの創作だと思う」
「そうだな。古典風に作ってはいるが、ところどころ変というか……」
3人は、その歌を書き出した紙を囲った。しみじみと眺めるその瞳に、じんわりと涙が浮かんだ。
「お母さん、あれだけ自分で作るのは苦手だって言ってたのに」
「でもなんか、母さんらしい歌じゃん?」
園崎弟の声は、どこか弾んでいた。
「この歌……どういう意味か、聞いてもいいですか?」
「ああ……まぁ簡単に言えば、色んな時代の色んな人からたくさんの言葉……ここでは歌を指すんだけど、それらを借りたけれど、自分自身の歌がないのが悔しいって言ってるみたい」
「はぁ……………………え、それだけ?」
「それだけって?」
”それだけ”だろう。これだけ紙を1枚丸々びっしり埋めて書いた内容が、自分の歌が作れなかったっていう泣き言なのか?
今までこんな手紙、見た事がない。
「いや、もっとこうメッセージ的なもの……例えば感謝の言葉とか、遺産に関する遺言とか、格言とかそういう……」
「充分、メッセージだと思うんだけど?」
「いやその、失礼だけど毒にも薬にもならないっていうか……ああ、そうだ! もう1枚あったはず! そっちにはなんて書いてある?」
俺が促して、最後の1枚を開いてみた。するとそこには――
これでおしまい
「なんでだよ……」
「ああ、これも来たか」
「何ですか、これ?」
「勝海舟の最期の言葉っす。歌じゃないけど、母さん、これも気に入ってたから」
「きっと自分も言ってみたかったんだろうなぁ、うんうん」
嬉しそうにしてるけどいいのか?
あまり踏み込みすぎるのは心情じゃないが、あまりにも気になるので聞いてみることにした。
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