暗中走行

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 扉が開いたままの電車の中は、温かい空気を押し出し冷めた空気で包まれてきた。数分間、駅に止まっていたこの電車も時刻表通りそろそろ動き始める頃だ。  淀んだ空気はあらかた外に流れ出たはずなのだが、それでも息苦しさを感じながら、腕時計の秒針を私はひたすら睨んでいた。  止まれ、と念じる。  戻れ、とも念じた。  時よ止まれ。時よ、戻れ。  いくら強く念じても、一寸もその様子を見せない秒針に、覚えず深いため息が出る。 「結衣」  名前を呼ばれ顔を上げると、ボックス席の向かいに座った明奈と目が合った。だらしない格好で座っている彼女は、駅のホームで私に気付いた時と同じ質問を繰り返した。 「で、こんな時間に何してんの?」  この問に答える前に取り敢えずと乗り込んだ電車がついに動き出し、体を前後に揺られながら今度こそ私は答える。 「塾だったの」
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