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本社総務部法務課勤務の辞令が下りた時は心底嬉しかった。
夏哉以外はみんな弁護士資格を持った年齢層高めなセクションで、夏哉の主な仕事はコピー取りだ。そして社内に多数いる、メンタル系で休職中の社員が提出してくる書類のチェック、保険組合や産業医への連絡、方々の精神科や心療内科に意見書を依頼して戻ってきた書類をまたチェック、と手の潤いが全て紙に持っていかれる毎日を送っている。封筒は時に凶器だという事も身をもって学んだ。
収入が大きく期待出来る採用枠ではないものの、家族に負担を掛けずには生きていける。それだけでも猛勉強した甲斐があった。
「田中くーん、最近体調どーお?」
「絶好調です」
「しんどくなったらちゃんと言うんだよー」
五十代始めらしい課長は強面なのに非常に優しい。夏哉の根性とコミュニケーション能力も買ってくれている。思えば26年生きてきて、人間関係にはかなり恵まれていたと思える。やはり自分はラッキーな星のもとに生まれて来たのかも知れない。
夏哉は楽観的で能天気だった。
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