「さとう」の二人

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「さとう」の二人

時計の時刻は夕方七時前を指している。もうとっくに定時は過ぎた時間だ。 私は自分の仕事を片付けようと、考えを巡らせている。 今私が取りかかっているのは、とあるファッション雑貨ブランドのミニカタログ。二月のバレンタインに向けたカタログだ。 しかし…あまりいい案が浮かばなくて困っている。 かれこれ三十分程、筆は止まったままだ。 「凛、ごめん。ちょっと来て」 不意に呼ばれた方向を振り返ると‐陸がいる。 正直遠目から見ても、はっきりと端正な顔立ちがわかるのが少し悔しいところ。 ほんの少しウエーブのかかった黒髪に、切れ目の目元に眼鏡がよく似合い…『メガネ男子』という言葉そのものの人物じゃないかとさえ思ってしまう。
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