【Ep.1】 レフトビハインド

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「ここ、か?」  目的の場所自体はさして苦労もなく、時間も掛からずに見つかった。この村、いや、正確にはスラムと呼ぶべきか。このスラムは入り組んだ作りになっているが、大きさとしてはそこまでの面積を持たないようだった。散策を初めてすぐにちょっとした通りのような所に出ると人通りも増えて、恐らくは店だろうか、皮革が吊るされた屋台や、生肉を扱っている場所も見受けられた。  村に隣接して鉄道が敷かれており、その反対側には小さな川が流れている。この場合は村に隣接して鉄道がある、のではなく、鉄道に隣接させてこういった集落が出来た、というべきなのだろう。洗濯や排泄物の処理、その他の水を必要とする行いはおおよそ川を使用しているらしく、一応スラムにも水路を作ってあるらしいが、既にゴミに埋もれてその機能を失ってしまっていた。 「ーーーアンタ誰だ?」  当初の目的通り、このスラムの長であるという男の家に訪れた俺だったが入り口が分からずに家の前で立ち往生していた所、背後から声が掛かる。 「……見ない顔だ。ここの人間ではないな。その肌、顔付き、東洋人か」 振り返ったそこには、よれたシャツを着た初老の男性が立っていた。手には何やら手提げ袋を持っており、中には野菜か果物のような食材が詰められている。 「サイード、さん……ですか?」  男性の目は恐ろしいほどに鋭く、また荒んでいた。あまりの猛々しさに俺は一瞬息を詰まらせ、絞り出すようにゆっくりと口を開く。  俺の質問に対して男性は無言のまま頷くと、顎をしゃくり、家の裏側へと向かって歩き出す。 ーーーーーーついてこい、ということだろうか。男性、サイードの背中を追って俺もまた歩を進めた。
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