1話 出会いは突然に

1/9
249人が本棚に入れています
本棚に追加
/143ページ

1話 出会いは突然に

私はしえり、どこにでもいる25歳の普通のOL。得意なことは手先が器用なことくらいで私生活は地味。だからなのかこの年になっても、恋愛経験がいまだにない。そろそろまともな恋愛がしたいなぁと思う今日この頃。最近、実家を出て会社の近くのマンションに引っ越したばかりで、荷物を運び込んだものの段ボールが多くてなかなか作業がはかどらない。時計を見るともう夜の6時を差していた。 私はまあいいか、明日やろうと一端中断して、玄関先に置いてあったエコバックの中にある菓子折を袋から3つ取り出し、ご近所への挨拶まわりにいくことにした。4件あるうち角の部屋と左隣の住人は会えたが、右隣の203号室の人だけは何回かチャイムを鳴らしたけど、会えなかった。私はまた明日伺おうと日を改めることにした。その後も何回か足を運んだけど、結局、一度もその人に会うことはできなかった。あの人は何をしている人なんだろう、もしかしたら仕事が忙しくて帰れないのかな、実は家にいて無視されてたりしないよねとか気がついたら私はいつもお隣さんのことを考えていた。悶々としたまま仕事にいき、仕事中もぼうっとしていたのを親友のさゆみがチラチラ気にしていた。 休み時間になり、いまだにぼうっとしている私の横にさゆみが座ると心配そうに聞いた。 「ちょっと、しえりどうしたの?仕事中ぼーっとして何かあった?」 「えっ、ああ!もしかしてもうお昼だった?」 「全くもう、ずっと上の空だったよ」 「ごめんさゆみ、ちょっと気になることがあって」 「気になること?」 さゆみは私が本気で悩んでると察したのか身を乗り出して何々、教えてよと言ってきた。 「引っ越し先のマンションのね、お隣さんに挨拶に行ったんだけど、いついってもいなくて会えないの」 「えーそれってタイミングが悪いだけじゃない?」 「そうなのかな、明日もう1回行こうかな」 「それか居留守使ってるかもねその人。もうやめといたら?」 さゆみはああは言うけど私はやっぱり気になって仕方がなかった。午後もそんな感じでのろのろと仕事をしていたので全く終わらず、私は残業することにした。さゆみはまだ残ってる私に声をかけた。 「しえり、無理しないでね。なるべく早く帰りなよ」 「うん、ありがとう。さゆみも気をつけてね」 私は、さゆみのくれた缶コーヒーを一口飲むと、残ってしまった仕事を片付け始めた。
/143ページ

最初のコメントを投稿しよう!