白木蓮の家

20/23
32人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
 あの【私】は知らない。  今の【私】を知らない。  だけど……知らなくていいのだと思う。  知らせる必要もない。 『楽しみだねぇ、お姉ちゃん!』 『そうだね! あゆむ? 早めに宿題終わらしちゃいなよ?』 『手伝ってよ』 『こら、あゆむ、自分でちゃんとやらなくちゃダメでしょ?』 『そうだぞ』 『えー』  笑い声が届く――。  そうやって向こうの私には何も知らず、笑っていてほしいと思う。  それは無知だバカだということではない。  いいや、あの頃の私は幸せについては無知だったのかも知れない。  だがそれは、なくして初めて気が付いた幸せだ。  見えないものに気が付くことは、困難だ。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!