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あの【私】は知らない。
今の【私】を知らない。
だけど……知らなくていいのだと思う。
知らせる必要もない。
『楽しみだねぇ、お姉ちゃん!』
『そうだね! あゆむ? 早めに宿題終わらしちゃいなよ?』
『手伝ってよ』
『こら、あゆむ、自分でちゃんとやらなくちゃダメでしょ?』
『そうだぞ』
『えー』
笑い声が届く――。
そうやって向こうの私には何も知らず、笑っていてほしいと思う。
それは無知だバカだということではない。
いいや、あの頃の私は幸せについては無知だったのかも知れない。
だがそれは、なくして初めて気が付いた幸せだ。
見えないものに気が付くことは、困難だ。
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