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白木蓮の家
今にも雨の降り出しそうな薄暗い田舎道を、私は足元だけを見つめて歩いていた。
小学六年まで暮らしていた街の舗装された道路とは大違いで、轍のあるこの道はひどく歩きにくい。
このうえ雨まで降り出せば、状況は一層厳しくなるのは目に見えている。
比べてはいけないとわかっているのに、無意識のうちに『今』と『昔』を比べてしまう。
よくない癖だ――わかっている。
わかっていても、どうすることもできない。
これは呪いのようなものだ。
この呪いに掛かったのは、小学六年の時のこと……正確には二年と七カ月前のこと。
その頃の私は両親と中学三年生の姉と、どこにでも居るような極々普通の四人家族の一員だった。
あの年も夏休みお盆に、私たち家族はここ……父方の祖父母の家に帰省した。
年に一度会えるかどうかの従妹たちもそれぞれ帰省で集まって、ワイワイ賑やかに過ごしたその後――。
私は自分でも気づかぬうちに、人生の大きな分岐点に立っていたようだ。
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