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カーテンの向こうの家族に思いを馳せながら、私は一歩……後退った。
あの家の中にあるものは、全部失くしたものだ。
――もう二度と会う事は叶わない人たちだ。
それでも私には……私の中には、たしかに家族と過ごした【幸せの記憶】がある。
それはどれだけ時間が流れたとしても、消えて無くなるものではない。
それだけで――もう充分だ。
そう思えただけで、もう。
もう一度、庭の白木蓮を見上げた。
あの木はまさに私たち家族にとって幸せの象徴だったのだと、今なら思う。
私は振り返らずに短いアプローチを通り門扉を抜け、そのまま昔そうしていたように後ろ手で鍵をかける。
無意識すぎた行動に、鋳物の門扉はガシャンと音を響かせた。
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