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慌てて私は振り返った。
しかし、そこにはもう――懐かしい我が家はなかった。
また訳が分からなくなり辺りをゆっくりと見回し、ようやく状況を理解した。
あぁ、ここは。
ここは間違いなく、今にも雨が降り出しそうな薄暗い田舎道の上だ。
少し先の民家の生垣の中で、見知らぬ白木蓮の蕾が揺れている。
私がさっきまで見ていたものは、全部夢だったのだ。
懐かしく、あたたかい夢。
――それでいい。
さっきのは夢だったかもしれないが、それでも。
「そうだとしても……」
私は自分の胸に手を当てた。
「ここにはちゃんと――」
あたたかく確かなものが、ある。
それがすべてだ。
すべては私の中にある。
何があろうと、それは永遠に私のものだ。
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