黒い日光

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部屋の照明を点けるも、カーテンの奥が明るくなる事はなかった。妻がカーテンに手をかけ、隙間から外の様子を見ようと、少しカーテンを開いた瞬間だった。一瞬の間を置いて、妻の体が目の前から消えたという。 何が起こったのか、全くわからなかった。暫く妻の名前を呼び、いよいよ事態の重大さを感じ始め、夫もカーテンの側に近寄ろうとした。 しかし足を止めた。カーテンから離れた場所で。窓から微かに吹き込んだ風が、夫の素足に何かを運んできたから。 「妻の灰でした。」    涙を浮かべ、カメラからその表情を隠そうとしていた老夫に、世界中の誰もが涙しただろう。 有り得ない、訳がわからない。でも目の前にいた愛しい人が消えた。それだけが現実としてそこにある。 風に撫でられ削れた灰山の中から出てきた指輪。妻が死んだという事実から目を逸らさせない、揺るがない証拠だった。 理由もなく消える筈はない、神隠しにでも合わない限り。    夜が開けない、いや、違う。光が黒いのだ。全てを照らす光、白い光、それが黒く染まったのだ。 『本日、黒い太陽出現率0.5%』  大きな液晶テレビの左下の端に小さく、気持ち程度に書かれた情報を、街を歩く人々はもう気にも留めちゃいない。 この情報に関心がない訳じゃない、誰もが次は我が身だと理解し、恐れているからだ。 でも、この情報の価値は全く無いということも理解している。     
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