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Kは一瞬ぎょっとしたがその蝶が死んでいることに気づいて少しだけホッとした。そして、彼を奇妙に思わせたのはその蝶の翅がガラスのように透明であるということだった。カーテンから漏れる日の光に透かしてみるとそれは虹色に輝いた。彼はその透明度にも驚いたし、翅を透かしてみても部屋の隅々までぼやけることなく見ることができたのにも驚いた。本棚に並べられている本の背表紙や床に散らばった様々なチラシ、学習塾の生徒募集や水道管の工事、不動産やクレジットカードの請求書などに書かれた細かい字でもくっきりと見分けることができる。Kは普段から眼鏡をかけるほど視力の弱い人間ではなかったが、もし眼鏡をかけることになったらこの蝶の翅をレンズにしたいと思うぐらい、くっきりと世界のありのままを見ることができた。嬉しくなった彼はその透明な翅で色々と見渡してみた。しかしKはすぐにそれをやめた。奇妙なことに気がついたからだ。彼は透明な翅を使って、先程の黒い封筒に入っていた真白い紙をじっくりと見た。その透明な翅ごしに紙を見ると赤い文字が浮かび上がっていたのだ。
Kはすぐにそれが一つの文章になっていることに気がついたので、最初から読み始めた。
はばたく黒い羽、
落ちる羽に描かれた
六つの言葉、
地獄に不可欠な六つの要素。
一つはガラクタ。
詩の神__無限__
贖う言葉の贖いと、
犯す言葉の犯された言葉。
詩のようだが何を言っているのかさっぱりだ、というのがKの心のうちに起きた最初の感想だった。彼はこれは全体の一部なのでは、と思った。なぜなら「六つの言葉、六つの要素」とあるのにそれらしき言葉は一つ目の「ガラクタ」しかなかったからだ。意味深長な言葉が並べられてはいるが、このままではこの詩が究極的に意味するものを察することができない。彼はこれまで詩というものをほとんど読んだことはなかったし、ましてや興味などもさらさら持ち合わせてはいなかったが、なんとなく、この詩の続きが気になった。それは決してこの詩がもたらす芸術的達成の所産に関心が向いた、などということではなく、あくまで続きが気になるという程度の子供のような興味からだった。
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