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100%、プログラムの転送が完了しました──。リクは乱暴に旧式カメラとコンピュータを繋いでいたコードを引き抜くと、カメラを手に入り口とは反対の窓に向かって走った。窓の外は道路を挟んで自然公園が広がっている。窓を開け、枠に足を掛ける。
「裏に回れ!」
公安警察を名乗った男が怒鳴り、自身も走る。
リクは必死に足を動かしながら、カメラを再起動させる。揺れる手元に苛立ちながら、時間の早送り設定をする。走りにくいと思ったらスリッパを履いていた。
「いたぞ!」
背中から怒声と、地面を蹴る何人かの足音が聞こえる。むきだしの踵や踝に、緑の芝がくすぐったくふれる。
「早送り設定、百年後、セットしました」
音声アナウンスが鳴った。特許も、お金も、酸欠気味のリクの頭からは消えてなくなっていた。ただ、自分のプログラムが本当に成功したのかを確かめたかった。五日間休みなくプログラムを書いた早送りカメラを使い、未来を見たいという願望だけが、本能のようにリクを呑み込んでいた。目の前にはところどころ茶色の土が見えている草原と、数本の木々、先にひょうたん型の池がある。リクは息を切らしながら、右目にカメラのファインダーを押しつけた。
「え──」
足の力が緩み、もつれ、リクは崩れるように転んだ。カメラが手から離れ、サイコロのように地面を何回転かする。どこにも力が入らず、全身から血液を抜き出されたように、リクはうつぶせのまま、その場から動かなくなった。
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