開口一番・開幕

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 これは、彼自身『伝統稽古』の従順な(しもべ)であるからなので、(しょう)()やむを得ません。ですが私は、日々彼から稽古をつけていただく度に、「今日も自意識の何処かが汚されてしまった…」と後悔をしてしまって、いつも(しゃく)(ぜん)としません。そんな不満のある状態で「はい、分かりました」と(てい)(さい)を保つ(から)返事をしたところで、やはり見抜かれてしまい、また今日も『エンドレス無給残業』というお調教の延長戦が始まってしまうわけです。もう慣れっことはいえ。   調教稽古に飽き飽きな疲れた日よりは、自ら望んで師匠を出待ちし続けた、今は懐かし『弟子入り志願の日々』を思い出します。  めげずに何度誠意を伝えようとも、私の聴覚へと与えられるのは「貴方はやめておきなさい」の聞き飽きてしまった決まり文句のみでした。私は、まるで相手にされていないことを察知するその度に、帰路は一人で「もうええわ」。ブツクサ文句を呟きつつも家路までを歩いた後、「はい、今日で終わり」と毎日寝床に着きました。  「〝落語家になりたい〟などという、突発的に生まれた浮ついた感情など消してしまえばいい」     
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