ゴブリンの変異

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ゴブリンの変異

宝石ラブラドライトの別名、ラブロードリッド。 光のあたり方や屈折、見る角度によって、まったく違う顔を魅せるこの宝石が好きだ。 エルフの住む国シルフィード大陸をでるとき、お母さんがくれたのがラブロードリッドのピアスだった。淡い青緑の石が虹色に光る瞬間が、儚くて綺麗だと思う。 「虹色に光るラブロードリッドは、幸運を呼ぶのよ」 子供のころから、お母さんが口癖のように言っていたので、すっかり覚えてしまった。 定期船でノームの国にきたとき、南にラブロードリッドの街があると聞いてお店を兼ねた家をこの街に決めたのは、そんな経緯があったかもしれない。 街の中央にある噴水広場と呼ばれるところから、少し路地裏を入ったところにあるこの家を私は気にいっていた。青い三角屋根に深い赤のレンガ。壁のレンガにはイシルが自生し、翠のツタが覆っている。 昔、大好きだった『ライラックの魔女』にでてくる家にそっくりな外観と南向きの柔らかな日射し。カディスには、ばばくさいと言われるけど、ひなたぼっこは現代における最高の娯楽だ。 ──シンディの魔法屋、昼下がりの午後。 依頼のアミュレットの制作を終えたシルフィは、窓辺に座りハーブティとクッキーを楽しんでいた。南向きの窓から射しこむ日射しがポカポカして気持ちいい。 「やっぱりムーラン堂のミンティは最高ね」 ペパーミント色の爽やかな色合いと香りたつ芳香な香りが、鼻をくすぐって心地いい。 ミンティの少しのほろ苦さとクッキーの甘さも手伝って頭がスッキリする。なかでも、ムーラン堂の扱う茶葉の炒り具合は絶妙で、高い品質と機械を使わず1つ1つ手作業で炒る手法は、シルフィード大陸にも届いていた。 (いつか最高級の茶葉を飲んでみたいわね) 最後のクッキーの1かけらを口に運ぼうとしたとき、乱暴にお店のドアが開けられた。
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