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「シルフィ、今だッッ!」
目の前には仰向けに倒れこんだゴブリンがお腹をみせている。
「了解」
言いながら右手に風を集める。
渦巻き状の風になったそれを一気にゴブリンのお腹にむけて解き放つ。
「ヴィンドストルム」
ゴオオオオーーッッと大きな音をたてながら、ゴブリンの身体を嵐が巻き上げて切り裂いていく。嵐の中心に捲きこまれたゴブリンが洗濯機に放りこまれた洗濯物のように、ぐるぐると円を描くように上空に運ばれていく。
20~30メーテルぐらいまで、いったところでシルフィがパチッと指を鳴らすと、激しく渦を巻いていた風は、その動きを止めた。
結果すでに意識のないゴブリンの身体は、地面に激しく叩きつけられ、ボールのように転がる。
「今度こそ、やったか」
ファイティングポーズを崩すことなく、近づいてきたカディスが声をかけた。
「たぶん……ね」
4~5回は繰り返した会話を重ねる。
6回めの正直というか、もういい加減にしてほしい。
ゴブリン。
冒険者が最初に相手にする魔物として広く知られ、集団で現れない限りそこまで警戒する魔物ではない。性欲が強く女性を襲うので嫌われている。
「なぁ、タフすぎねー?こいつ」
うんざりした顔で、ため息をつくカディスにシルフィも同意する。
「だね。予備の武器とはいえ何回めよ」
ここから私達のいる街まで20分くらいの距離。
逃げて放置するのも危険だ。街にゴブリンが入りこむのは良くない。
お得意様から依頼の前金も、もらっている。
「ゴブリンを放置するのは、女性の安全に関わるわ」
シルフィは拳をワナワナと握りしめた。
「安心しろよ。ゴブリンも、お前のことは襲わないと思うぞ」
意地悪そうにモスグリーンの瞳を細めると、シルフィの胸の辺りをみる。
「なによっ。私の胸に文句あるの!?」
「いや、むしろ文句しかねーよ」
ブレスレットが重なる音が静かな草原に響き、服の上からサワサワとシルフィの胸をさわる。うつむいて真っ赤になったシルフィは、怒りでブルブルと体が震えていた。
「お前さ、もう16なんだからもうちょっと、なんとかなんねーの?そのまなi……」
「ヴィンドストルム」
「ウオッアアァァァオオオオオオッッアーー!!」
叫び声はどんどん遠くなり、すぐに聞こえなくなった。さらば、カディス。
ゴブリンも目を覚ます気配もなく事切れている。
シルフィは街に戻ると、依頼のゴブリン討伐を依頼主に報告した。
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