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待ち遠しくて眠れないと思っていたが、悠馬はすぐに深い眠りに就いてしまった。そして人々が寝静まった夜更け。誰も手を触れていないのに、窓の鍵がひとりでに落ちた。窓が開かれ、悠馬はその音で目を覚ました。窓の方を見ると、そこに一人の少女が立っていた。袖や裾なんかに白い綿のついた赤い服にショートパンツ。同じく被る部分に白い綿のついた赤い帽子。ただし、帽子からは黒い猫耳が飛び出してぴょこぴょこと動いており、腰のあたりからは黒い尻尾が揺れている。左手にキャンディーケーンを握っており、長い黒髪につり目がちな金色の瞳の少女は、悠馬と目が合うと「あわ……あわわ」と変な声を出してベランダに尻餅をついた。
「いたた……汚れちゃったよ」
少女は立ち上がってお尻をパンパンとはたくと、むっとした顔で悠馬を見た。
「ねえ、どうして起きてくるのよ」
「どうしてって」悠馬は体を起こして、後ろ手で頭をかいた。「きみが勝手にぼくの部屋に入ってくるから」
「人を泥棒みたいに言わないでよね!」
「じゃあ、きみは誰なの?」
「見てわかるでしょ」と少女は得意げに自分の胸に手を当てた。「日本全国、世界数十カ国すべての子どもたちのアイドル、サンタクロースよ」
「サンタクロースに猫みたいな耳と尻尾はないよ」
「あたしにはあるの」と少女は唇を尖らせた。
「それに、きみにはひげも生えてないし、おじいさんでもない」
「はあ? おじいさんじゃなかったらサンタクロースになれないルールとかないし」と少女はわめきだした。どうやら黒猫のサンタクロースは怒りっぽい性格らしかった。「いい? そういうのを『偏見』って言うのよ」
「へんけん……」
「『サンタクロースはみんなおじいさんだ』って決めつけることよ。もしサンタクロースがみんなおじいさんだって言うんなら、二十年後にはサンタクロースなんて世界に一人もいなくなっちゃうわよ」
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