ゆっくりさせるもの

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ゆっくりさせるもの

初老の男性がマッチをする。 生まれたばかりの小さくも温かい炎はゆっくり動く。 その炎は生家である小さな木から白い紐へと移ると、力強く燃えだした。 炎はガラスを熱し、中にある水を温める。 ゆっくりと確実に温度が上がっていく水を私は見つめる。 「熱心に眺めますね、あいかわらず。」 初老男性が、この喫茶店のマスターが私に話しかける。 「ええ、コーヒーサイフォンって見ていて楽しいです。それにマスターが淹れていくれるコーヒーが一番美味しいですし。」 「そう言って頂けると嬉しいです。」 水が沸騰しだしたのでマスターは慣れた手でフラスコに準備していた漏斗を差し込む。 私が褒めて照れたのだろうか、マスターの頬は少し紅くなっているようにも見える。 お湯が3割程上に上がったところでマスターは竹ベラで漏斗内をかき回す。 お湯に浮かんだコーヒーの粉をほぐすようにマスターは優しく撹拌する。 「………」 マスターの顔は先程と違って真剣になっている。 撹拌の仕方で味が変わるので気が抜けないのだろう。 マスターが竹ベラを取り出すころ、フラスコ内のお湯が勢いよく漏斗へと上がりだした。 やがて、フラスコからお湯がなくなる。     
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